現在、BIMをやらなければと騒がれている背景には、国土交通省などの国の機関がBIM発注を増やすだとか、東京オリンピックの施設はBIMで設計とかの話が出ていて、 役所の仕事をするにはBIMをやらねばということで、BIMに取り組む会社が多くなってきていると思います。 しかし、BIMが出始めのころに取り組まれた会社は、純粋にBIMが業務の効率化と問題点の解決に役立つということで始められたところが多かったと思います。
日本でBIMが出始めた2008、9年頃は、リーマンショックがあり建設業も厳しい状況に直面しました。 設計事務所もゼネコンも安値受注に走り、量をこなさないといけなくなったことにより、品質の確保が難しくなっていました。 設計事務所では図面の整合性が取れず、図面の質も悪くなり、またゼネコンでは設計、施工、積算など各部門の縦割りの弊害が出て十分な情報や意思伝達もできなくなっていました。 こういった状況の中、「BIMっていう3D CADが海外で出始めてらしいで。アメリカや東南アジアで成果をあげて、えらい話題になってるそうやで」と関心を持たれたゼネコン・設計事務所が、 BIMでこれら諸問題を解決できないだろうかとBIMに取り組み始めました。ではBIMによるメリットは何があるのでしょうか。一般的には次の3つがあげられます。
(1)設計内容の可視化 (2)建物情報の入力・整合性の確認 (3)建物情報の統合・一元化 です。
(1)設計内容の可視化ですが、建物を建てるには、その建物を建てるための関係者すべてに情報を伝達しなければなりません。 発注者はもちろん、社内のプロジェクト関係者、確認申請を審査する役所の人、協力業者の人、近隣住民の人など建築の知識がある人、ない人、多種多様になります。 今までの情報の伝達手段としては図面ありきでしたが、建築知識の乏しい一般の方に図面だけでイメージを持ってもらうのは難しいです。 BIMでは実際にコンピュータ上でその場所に建物が建った状態になりますから、あらゆる方向からの外観、内観、景観が瞬時に確認できますから、イメージの共有、意思決定の迅速化がはかれます。 また、建築技術者同士でも3次元データでの打ち合わせが中心となりますので、3次元での確認により、細かい納まりのチェックなどで意思の疎通、正確性の向上に役立ちます。
次に(2)建物情報の入力・整合性の確認ですが、図面などの設計図書はBIMの3次元モデルから生成されます。 平面図、立面図、展開図などが、それぞれのディテイルで2次元CADデータとして切り出されます。いわば図面はBIMモデルの副産物といった要素になります。 したがって、3次元モデルが正しければ、実際の建物と図面との整合性が取れた図面を作成することができます。 ただし、一般的にBIMモデルから切り出された2次元CADデータはそれだけでは完成品ではなく、さらに2次元CADで追記・編集して最終図面を完成させます。 したがって、BIMモデルから2次元CADデータを切り出した後、BIMモデルで変更があった場合は、再度2次元CADで追記・編集作業を行う必要があります。 ですから図面の切り出しは設計のデザイン・仕様が確定した最終段階で行う必要があります。 ただし、作業量からすると従来の実施設計図面を1から作成する作業量とBIMモデルから実施設計図面を作成する作業量を比べると、後者のほうが作業量は少なくなると思われます。 ただ全体の設計の工程からすると、BIMの設定では基本設計段階でモデル作成の作業量が増えます。従来の設計とBIMの設計の時間と作業量をグラフで表すと以下のようになります。これを見るとBIMの設計では2つのコブができると考えられます。

(3)建物情報の統合・一元化ですが、現在は設計・構造・設備・積算・施工の各分野の業務は分業化されており、それぞれの分野で使うシステムが異なる為、
データでの受け渡しがスムーズにできていません。あいかわらず情報の伝達が図面中心で間違いも多いのが現状です。BIMでは3次元モデルを中心に、BIMの標準フォーマットのIFCという中間ファイルを介して、3次元データで各分野のシステムと受け渡しができるようになっています。
これにより、各分野の専用システムの入力時間の短縮、精度の向上が図れます(例えば積算システムのヘリオスでいうと、配置データ、リストデータはBIMモデルから受け取ることができるため、ヘリオス側での入力時間の短縮が図れます)。
その他、バーチャルで建物を事前に建てますから、空調や採光のシミュレーション、ビル風の状態などの環境シミュレーション、
現場では、配管などの干渉チェックを事前に行えるなど生産設計に役立てることができます。それともう一つ注目されているのがFMです。上記ではどちらかというと、受注側(設計事務所、ゼネコン)のメリットですが、それにプラスして言われているのが発注者側(施主)のメリットです。
建物は建てるだけでなく、建った後にも維持管理の費用が発生します。これをライフ・サイクル・コスト(LCC)と言いますが、一般的にその費用は建設にかかった費用の約3倍は必要だと言われています。
また建物が建った後から寿命が来て解体されるまでの維持管理・運用管理のことをファシリティマネジメント(FM)といいます。
何年後にどの部分に改修が必要だとか、また部屋のレイアウトや外壁をどのようにリノベーションしたら収益性がUPするとか、
FMを上手く運営することにより、維持費を安くしたり、その建物の寿命を延ばしたり、収益をより多く生み出したりすることができます。
日本では施設管理というと日陰の存在で、あまり重要視されていませんが、海外では経営直下に置かれるなど重要部門になっているところも多いです。そして、このFMを行うためのツールとして、BIMが注目されています。
日本のFM、保有施設の電算化は施設管理台帳をEXCELなどで管理するといったところが多く、データの抽出や分析などはできにくい状況です。 また、地理情報や位置情報、図面情報などとはリンクできておらず、管理がしにくいといったものになっています。 BIMモデルは実際に建った建物と同じですから、その中にはその建物を構成している全ての情報が入っており、例えばある材料に何年後に改修が必要という情報を与えておけば、 時系列で毎年の改修が必要な部分を抽出することもできます。 また、外壁やレイアウトを変更した場合のイメージも簡単に確認することができますので、リフォームやリニューアルの検討に役立ちます。 発注側がFMでBIMデータを有効活用することにより、LCCの低減化、建物の価値を下げない、また利益を生み出すデータベースとなる可能性が注目されていて、 大手デベロッパー、製造業の間でも関心が高まっています。このFMには受注側(ゼネコン・設計事務所)も注目していて、設計、施工したBIMモデルを持つことにより、施工後の改修工事などで仕事が取りやすくなるという狙いもあります。
上記のようなことを並べるとBIMの可能性は素晴らしい、ぜひやらなければと思われる方も多いと思われます。けれど、実際にやってみるとデメリットも多く、難しい面もたくさんあります。次回は、そういったBIMの難しさ、デメリット、現状の課題についてお話ししたいと思います。
