酒学

第10回 日本酒の話
 10月も下旬となると、肌寒くなり暖かい飲み物が恋しくなってきます。暖かいお酒と言えば日本酒ですね。 日本酒といえば、この夏大ヒットした映画「君の名は」で、以前コラムでお話しした“口噛み酒”が重要な役割で出ていました。 映画では主人公の高校生で巫女をしている女の子が、神楽舞の最中にお米を口に含んで、噛み砕して唾と一緒に容器に垂らす場面があって、同級生から気色悪がられていました。 映画では詳しく説明されていませんでしたが、これが口噛み酒で、唾液に含まれたアミラーゼがお米のデンプンを糖に変え、自然の酵母によってアルコールに分解されてお酒になります。 これを神様に奉納してたんですね。まだ、麹による酒作りが発明される以前の古代の日本では神様にささげる尊いお酒は、このような神事の中で作っていたんでしょうね。 ちなみに映画ではこの口噛み酒が、主人公の男の子と女の子が時空を超えて出会うための、重要なアイテムになっていました。
 そういうことで、今回は日本酒に関するうんちくを少しお話します。
 以前のコラムで、米の精米歩合で大吟醸とか本醸造とかの話はしましたが。その他にも日本酒に関するキーワードはたくさんあります。少しご説明したいと思います。
●特撰、上撰
ご存知の方も多いと思いますが、1992年以前には日本には特級酒、1級酒、2級酒と区別する級別制度がありました。 特級酒のほうがうまいという印象がありましたが、実はアルコール度数によって決められていて(特級酒のほうが税率が高く設定されていた)、 実際の酒の良し悪しということでは無く、1992年にこの制度は廃止されました。 しかしながら、消費者には酒の良し悪しの基準がわからないという事で、蔵元が独自の基準で判定し特撰とか上撰という形でランクを付けてラベルに表記しています。
●原酒
日本酒は醸造酒の中でもアルコール分が高く、もろみを絞った段階では20%前後にもなります。 通常は加水してアルコール分を13〜16度くらいに調整して出荷しますが、原酒は加水せずアルコール分が高いまま出荷します。 そのため味わいは濃厚で深いです。またアルコール度数が高いので、ロックやカクテルでも楽しめます。
●生もと(きもと)作り
日本酒の製造過程では、いろんな酵母菌の他たくさんの細菌が生存競争をしています。 日本酒を作り出すためには、良質な酵母菌を残し、それ以外の最近をやっつけてしまわないといけないのですが、それには乳酸菌の力を利用しています。 乳酸菌は酒造りに不要な雑菌を駆逐しますが、現在ではその乳酸菌は製造過程で人が投入しています。 生もと作りは明治以前の酒作りのやり方で、人工の乳酸菌を投入するのではなく、酒蔵に住み着いている乳酸菌を人の手でもろみに取り込む方法です。 そのやり方は、桶に酒母を入れ、船をこぐ櫂のようなもので酒母を摺る作業を、寒い冬の夜に一昼夜行うという過酷な作業が必要です。 乳酸菌の培養ができる明治中までは、この生もと作りが主流でした。生もとの酒の特徴は、生き残った酵母の生命力が強く、死んでしまう酵母の数も少ないので、コクと野性味があり、味わいが濃厚です。 そのため、吟醸酒であっても、燗にしておいしくいただけます。 生もと作りを前面に押しているのは菊正宗酒造で「酒は生もとでうまくなる」のキャッチフレーズで宣伝しています。
●山廃仕込み
生もと作り同様自然の乳酸菌を用いますが、生もと作りの摺る作業(山卸)を省略します。正式には山卸廃止仕込みといいます。味わいは生もと同様濃密でコクがあります。
●生酒
通常、日本酒は絞った後と瓶詰する直前の2回加熱処理をします。 加熱処理を行わないと余計な菌が繁殖して劣化してしまうためです。生酒はこの加熱処理を一切行わないものです。 したがって、スーパーなどで流通することはむずかしく、ほとんどは地元で消費されます。味わいはフレッシュで軽快な飲み口です。
●生貯蔵酒
通常の2回の加熱処理を、瓶詰直前の1回だけに加熱処理を行ったお酒。生酒同様フレッシュな味わい。
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