第6回 サントリー山崎工場見学記

1年ほど前の話になりますが、京都にあるサントリーの山崎ウイスキー工場の見学に行ったときの話をします。

ここは、日本初の国産ウイスキーの発祥の地で、1923年に開設されました。初代の工場長はNHKでやっていた朝の連ドラ「マッサン」のモデルのニッカウヰスキー創始者の竹鶴正孝氏です。 この土地は、豊臣秀吉と明智光秀の合戦で有名な天王山のふもとで、名水百選にも選ばれた上質の水がわき出るところです。あの千利休もここの水を好んでお茶をたてたと言われています。 また前方には京都市内から流れる桂川、賀茂川、宇治川の合流地点で、この環境からウイスキー作り最適な霧が発生しやすく、まさに日本のウイスキー発祥の地にふさわしい所です。

工場見学は有料と無料のものがあり、それぞれガイドさんが付いてくれます。私が参加したのは期間限定の有料の「ウイスキー&ショコラ」セミナーでした。 まず、工場入口で受付し中に入ります。見学用の建物があり中に入るとサントリーウイスキーのこれまでの商品や写真などが展示されています。原酒の小瓶が並べてある通路を通ってツアーの受付をします。1ツアーには30人くらいで行動します。 ツアー開始時間になるとガイドさんに先導され見学棟を出ます。

まず向かうのは糖化・発酵室です。ウイスキー作りは、まず麦芽に熱を加え乾燥させます。その時に使う燃料が山崎工場ではスコッチで使うピートも使用しているそうです。 ちなみに「マッサン」で出てくる「煙くさい」というのはこのピートを燃やした時の煙が麦芽に染み、その香りがスコッチウイスキーの独特の風味となっています。 発酵過程では、山崎工場では発酵に使う樽はステンレス槽だけではなく、木樽も使っているそうです。木樽は温度管理など大変ですが独特の味わいが作れるそうです。

次に向かうのは、金色に輝く(銅製ですが)ポットスチルがある蒸留室です。山崎工場では蒸留は2回行われていて向かって左側が1回目、右側が2回目となっています。 蒸留の仕組みを簡単に説明しますと、発酵室でできた約7%のアルコール原液をポットスチルの中で加熱します。 水とアルコールの沸点の違いによりアルコールだけが先に蒸発し、ポットの先の細い管を通る間に冷却されアルコール度数の高い液体が抽出されます。ポットはこの部屋では12基ほどあり、細いタイプやどっしりしたタイプなど異なった形状になっています。 これは形が違うポットで蒸留することにより、異なった味の原酒を生み出させるためという理由によるものです。2回目の蒸留を経ると約7%の液体が、アルコール度数が約70%の無色透明の液体となります。(これをニューポットと呼びます)

次に向かうのは貯蔵庫です。生まれたての原酒は樽に詰められ、貯蔵庫で熟成されます。貯蔵庫に入ると、まず目に入るのが中にある何百個ものきれいに並べてある樽です。 それぞれの樽には樽詰めされた年が書かれていて、最も古い樽は1924年(大正13年)のものまであります。 貯蔵室の中はひんやりと寒かったですが(私が訪問したのが2月の終わりでした)ガイドさんの話によると特に温度管理はしておらず、夏は暑いまま、冬は寒いままと山崎の四季それぞれの温度のまま貯蔵されているそうです。 樽は大きさや材質の違う5つのタイプのものが使われています。これは樽の大きさ、材質により異なる味わいウイスキーを生み出すためだそうです。蒸留された原酒は樽で熟成させることにより、樽からの香りや成分などが抽出され、まろやかな味わいの琥珀色のウイスキーとなります。 ちなみに、樽熟成させる間に中に入っている原酒の量は減っていきます。これは樽の木材に原酒が染み込み蒸発するからと言われていますが、醸造家では昔からこれを「天使の分け前」と言っています。 おいしいウイスキーを作るには、天使にちょっとおすそ分けして手伝ってもらうといったところでしょう。

工場見学はここまでで、次は試飲ルームで待望のテイスティングとなりますが、山崎ウイスキーが誕生するには、もう一つ重要な工程があります。それがブレンドです。 山崎ウイスキーはシングルモルトウイスキーです。シングルモルトとは1つの蒸留所で大麦から作られたウイスキーを言います。ウイスキーにはいくつかのタイプがあります。 まず原材料の違いで、大麦麦芽から作られたものをモルトウイスキーといい、トウモロコシ・小麦などから作られたものをグレーンウイスキー、両方をブレンドしたものをブレンデッドウイスキーと言います。 また、1つの蒸留所で作られたモルトウイスキーをシングルモルトと特別に言います。シングルモルトという言葉だけが先行し、シングルモルトだからおいしいといったイメージがあるかもしれませんが、そういう意味ではありません。 シングルモルトウイスキーは、その蒸留所だけで育まれますので、より蒸留所の個性が引き出されるということに価値が生まれます。

山崎蒸留所では、ブレンダーたちが山崎蒸留所で生まれた味わいの異なる原酒をテイスティングし、ブレンドを行い、山崎の味を作り出して、山崎ウイスキーとして市場に出荷します。 ちなみに山崎12年とか山崎○○年とかありますが、この年数はブレンドした原酒が最低○○年以上熟成したもののみをブレンドしたもので、それ○○年以下の年数の原酒は入っていません。 最近はウイスキーブームもあり、山崎の18年などは5万円近くで販売されるほどの人気になっています。

さて、最後に待望の試飲が待っています。試飲は100人くらいが入れるホールみたいな場所があって、グループ毎にテーブルに座ります。 椅子の前には、サントリーの高級ウイスキー、シングルモルトの山崎、白州、ブレンデッドウイスキーの響、海外メーカーのバーボンのメーカーズマークが量としはそれぞれ2ショットずつぐらいずつ、 それと水割用の天然水とハイボール用の炭酸水、それとショコラセミナーということで、チョコレートが用意されています。ホールの壇上にはガイド役のきれいなお姉さんがいて説明を始めます。 今回はウイスキーにチョコレートに合わすということでチョコレートが4つ用意されているのですが、このチョコレートが某有名チョコレート店のもので、山崎工場のこのセミナーのためだけに作られたものらしいです。 それぞれのチョコはサントリーのそれぞれのブランドに合わせて作られたもので、試飲では山崎を飲んだ後、山崎用のチョコを食べて、また山崎をチョビっと飲んでその味わいを確かめるといった感じです。 もともと、ウイスキーとチョコレートの合性はいいですが、さすがにそれぞれのウイスキーによりマッチングするように作ったチョコだけあって、ウイスキーとチョコレートの両方が風味、味わいが引き立つ素晴らしいものでした。 よくお酒と料理の組合せを人の結婚に例えてマリアージュと言いますが、まさにベストマリアージュの組合せです。私は特に白州がチョコで味わいが変化するのに驚きを感じました。 あと、ハイボールや水割りにして味わいや風味、香りが変わるのを体験します。 (ウイスキーは水で割ることにより香りが広がります。特に1:1の常温の水で割ることをトワイスアップといいますが、プロのブレンダーはこの方式で香りを取っています) 私は一緒に行った友達の娘さんがウイスキーは苦手ということで、2人分いただいてすっかりご機嫌になってツアーが終了しました。

あと、商売人のサントリーさんですから、帰りの道中にはお土産コーナーがあって、山崎工場限定のグッズやお酒があり、私も山崎工場限定の山崎を買って帰りました。

最近は大人の社会見学が人気で、今回の見学も抽選で当たらないと見に行けないというものでしたが、行ってみたら新しい発見や話のネタになるのは間違いないと思います。よければ、また行ってみてください。 ちなみにサントリーでは山崎工場の他に関東では白州蒸留所でも行っているようです。参考までに下記のホームページから申し込みできます。
http://www.suntory.co.jp/factory/  もしくは [工場見学 サントリー]で検索